久保帯人「BURN THE WITCH」

「BLEACH」の久保帯人による新作は西のソウル・ソサエティ「ウェスト・ブランチ」を舞台にしたドラゴンと魔女によるアクションストーリー。人間に害なす存在である「ドラゴン」を管理する「リバース・ロンドン」の住人でありウィッチのニニーとニーハのペアはとある事件により「ドラゴン憑き」となった青年バルゴ(とオスシちゃん)を管理することになり、彼を中心に起こる騒動に巻き込まれていく──。

 見た目ヤンキーなニニーと見た目クールなニーハことのえるの二人による活劇はノリだけでも楽しんでよし、舞台背景設定を考察してもよし、と従来から新規の読者までそれぞれに楽しめ、またコミックとアニメのそれぞれでも楽しめるという贅沢な一作。

 短期集中連載とアニメの劇場公開・配信を同時期に行うという、人気と実績を持つ作家だから可能な変則的な作品で、単行本では読切で先行した0.8話とアニメのストーリーとなる1~4話を収録。プロローグとなる0.8話はアニメには含まておらず、アニメだけを見るとよく分からないところが出てくるのでこちらだけでも先に読んでおくのがよさそう(0.8話はWEBでも公開中)。

 舞台設定とキャラクター造形、台詞回し辺りはさすが師匠の貫禄といった感じのオサレ。問題のストーリーに関してはアニメとの絡みと短期集中という形式で区切りをつける必要があるからか、短編としてきっちりまとまっているかと。それでもこれからの話の広がりを思わせる設定とキャラの見せ方の仕込みっぷりは本当に上手い。扉絵のカットやわずかな出番のシーンだけでもキャラクター性を感じさせるのを見ると師匠のキャラクターデザイン技術本が欲しくなる。問題としては次の掲載が全く不明なところで、アニメの企画との兼ね合いもあるだろうから、極端に遅いペースにはならないとは思うものの一体どうなることやら。期待はそのままに気長に待とう。

曽田正人「め組の大吾 救国のオレンジ」

 曽田正人待望の新作「め組の大吾 救国のオレンジ」が月マガで連載開始。今作の新たな大吾となる十朱大吾、そして斧田駿と中村雪の三人の消防士が特別救助技術研修で出会い、同じ小隊を組み、それぞれの思いを持って訓練に挑む──、というところからスタート。

 前作「Change!」では導入をじっくりやりすぎた反省と反動もあってか、今作では新人期間やレスキュー試験などをすっ飛ばしての救助技術訓練の中盤から佳境を大増ページで一気に見せる勢いのよさ。そしてそれを一気に読ませる力量と熱量の高さはさすがといったところ。1話のスタートダッシュは早いものの、主役三人のキャラはまだ軽く見せてる程度なので、これからの掘り下げに期待。1話だけだと駿が語り部役のように見えるし、女性消防士として雪を入れてくるあたりその辺の話もがっつりやりそう。そして旧作から甘粕がさっそく登場し、これからどう物語に関わっていくのか楽しみでしかない。

 連載はマガポケでも読めて1話の半分までが無料。またサンデーうぇぶりでは旧作の10巻分が期間限定で無料とのこと。

曽田正人新作「め組の大吾 救国のオレンジ」が月マガ11月号より連載開始

 曽田正人待望の新作はまさかの「め組の大吾」。前作「Change!」が無念の打ち切りで月マガの単行本売上絶対主義を見せられただけに今度は外せないとはいえ、「め組の大吾」を持ってくるとは思わなかった。もし続編があるとしたらまだ道途中の「capeta」とばかり。あらすじを見る分にはそのままの続編ではなく、主人公を変えてのほぼ新作っぽい。「め組の大吾」から世界観を引き継いで、時系列も現代にして大吾は主人公たちの憧れの存在になってる感じかな。新たな「め組」と新たな「大吾」がどうなっていくのか期待して待っていよう。

羽根川牧人 / ゆうなぎ「八雲京語り 宮廷に鈴の音ひびく」1巻

 長年争いの続く西の武家と東の公家は互いの疲弊により一時休戦の約定を結ぶことに。その政略結婚に選ばれたのは武家からは「鬼姫」雲雀、公家からはまだ十二の少年鈴鳴だった。たった一年限りの夫婦となった二人は、周りに流されるばかりの自分たちの存在を確固たるものにするべく動き出す──、という和風ファンタジー。羽根川牧人の同名原作小説をゆうなぎがコミカライズ。

 ざっくりいうと二十二の雲雀が十二の鈴鳴に発破をかけて少年を男に育てる逆光源氏もの、もしくは平安おねショタ(ざっくりすぎる)。かといって雲雀から鈴鳴への一方的なものかというとそんなこともなく、互いに認め、時には言い合い、それぞれの戦いの場へ向けて準備する、というのがきっちり描かれているため、年の差カップルの架空歴史ドラマとしても十分面白い。おそらく時代設定、舞台設定、各家の設定などきちんと作ってあると思われるものの、その辺りは軽く流して二人の物語に絞っているのはキャラクター小説として正解かと。そのメインの二人を始め、それぞれのライバルとなる暮明、鎬雨夫妻、陰陽師で歌人の雅親などなどキャラの立った脇役を表情豊かに魅力的に描いてくるコミカライズ担当のゆうなぎさんの筆力には素晴らしいものがあるかと。老若男女に着物、建築物まで描けてるから過去作がそこそこあるかと思って調べたら読み切りのみで本当に新人っぽい。今後の展開と活躍に期待していよう。

amphibian / 中山敦支「こっくりマジョ裁判」

「ねじまきカギュー」「うらたろう」の中山敦支の最新作その2。元KEMCOのシナリオライターamphibianを原作に迎えての少女たちによるデスゲームもの。それぞれの生活の中で突然一室に集められた少女6人、彼女たちが囲む一つの机の上にはコックリさんの紙とコイン。部屋には名前の書かれた黒板と首を吊られたの魔女の姿。コインから指を離すことはできず、それぞれの手持ちの3枚のカードの意味は一体──。

 全体としては生き残りをかけたデスゲームではあるものの、ストーリーの大半は何も分からない状態からの現状とルール把握に費やされるためにミステリー要素もそれなりにあり、そこに個々の駆け引きというギャンブル要素も含むというなかなかの詰め込みっぷり。このゲームのルール探しがほとんどメインのようなもので、ルールを把握し、その穴を探し、駆け引きに使う、というのはカイジあたりと通じるものがある。机一つの上だけで行われる少女たちの争いが全1巻で駆け抜けていくスピード感は素晴らしく、ダラダラやるよりはこのくらいさっくりとまとめて後はご自由にってくらいが丁度いい。まあ勢いが良すぎて置いてけぼりにされているところはちょっとあるけど、巻末に付け足しで一応の補完はされていてそれがいいかどうかは人によりけりか。

中山敦支「スーサイドガール」1巻

「ねじまきカギュー」「うらたろう」の中山敦支の最新作その1。自分の生を終わらせるために他人を自殺から救うことになった少女、青木ヶ原星(きらり)。人に取り憑き自殺へと追い込む悪魔「フォビア」と戦うため、きらりはマジカル首吊りロープで自殺装束装着(スーサイドレスアップ)してスーサイドガール首吊少女(ハングドガール)に変身する! という魔法少女アクション。

「魔法少女」という最近では目新しくもなくなった題材をどう料理してくるかと思ったら、主人公はポジティブな自殺志願者で自殺道具でフリフリの魔法少女に変身し、さらに必殺技はその道具に準じた技だったりと、設定だけなら色物でしかないのにそれを超えてくるストーリーの勢いとアクションの大見得の切りっぷりはさすがの一言。愚直なほどにまっすぐで、目的のためなら自分はどれだけボロボロになっても構わないというのは中山敦支作品の主人公の系譜であり、そこに各キャラクターの生死感をストーリーに絡ませてくるのもまた変わらない作風かと。

 1巻の終盤で二人目のスーサイドガール手首切少女(リスカガール)が登場し、現在彼女のエピソードは連載中なので、予定されているだろう3人のスーサイドガールが揃うのはもうちょっと後になりそう。これからが期待できそうなだけに、掲載がウルトラジャンプなのでさすがに短期打ち切りはないと思いたい。

丈「宇崎ちゃんは遊びたい!」

 いつの間にかに一ジャンルとして定着した「イジり系」の一角、「宇崎ちゃんは遊びたい!」のアニメ放送・配信が始まったので、これを機に既刊5巻を購入。名前通りにウザいほどのイジりと進展のないイチャラブが延々と続くのをまとめて読むのは意外と気力と体力を持っていかれる。面白いんだけど疲れる。良くも悪くも2人の関係に大きな進展はなく(外堀は埋まっていくけど)、ラブコメにありがちなライバルキャラの逐次投入がないので、脇役3人の見守り位置に立てるのなら十分に楽しめるかと。ただ宇崎ちゃんの先輩イジりは本気で遠慮がないので、そっちの耐性と余裕がないと厳しいかなあとは思う。この辺をアニメでは冒頭に本編の1年前のエピソードを追加して、イジりとウザ絡みの理由付けを持ってきたのは上手い構成だったかと。まあ声がついてよりウザくなったのでプラマイゼロともいえるけど。「イジり系」はその性質上、作品ごとに人を選ぶので先に公式サイトで試し読みするのがおすすめ。

ミヤコヒト「にじよん ~ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会 よんこま~」

 3人ごとの分室連載を経て、改めて9人揃ってWEB連載された「にじよん」を一冊にまとめた単行本がついに発売。シーズン1、2と描き下ろし、雑誌に掲載されたニジガクデート出張版、校内マッチングフェスティバルレポートコミックが収録されいて、マンスリーランキングの4コマは未収録。なおこちらは1stファンブックに収録済みなので、併せて読むのがおすすめ。これがそれなりに売れて分室3作品も単行本化されるといいんだけど。

ミヤコヒト「ルルメイト」

「にじよん」の単行本化が決定ということで、なんとなくミヤコヒトさんの「ルルメイト」を読み直したくなったので本棚から引っ張り出してきた。

 コミックアライブの内部雑誌企画から始まったコミックキューンの初期を支えた一作で、部員一名ずつの演劇部、書道部、漫研、軽音の部室共有から始まる女子高生ゆるライフ4コマ。まるっこい絵柄とゆるいノリととりとめのない会話とあとちょっと百合、キャラは天然、金髪少女、ツンデレ、ボケと色々ときらら作品のいいとこ取りな感はあるけど、二番煎じ感はないのは本人の作風か。この作風は変わらず「にじよん」に受け継がれているので、主人公たちの隣の部室がスクールアイドル同好会でも違和感ないくらいにはそのままの空気。「にじよん」が好きな人なら問題なくオススメできる。全2巻と短いのでまとめて買っても大丈夫。

 しかしまあ改めて読むと良くも悪くも押しは強くないので、今も昔も群雄割拠のきららか今の押しの強さしかないキューンだったら埋もれてたかもなあと思わなくもない。

https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_MF06000007010000_68/

小坂泰之「放課後ていぼう日誌」

 今期アニメとして3話まで放送配信されたものの、コロナ騒動の影響で4話以降の予定が完全に未定となり再開まで待ちきれなかったので単行本既刊6巻までまとめて買ってきた。1巻のみKindleでプライム対象だったのでこちらで試し読みしてからの購入。結果から言うと大当たり。

 ストーリーは割とオーソドックスで、主人公が周りの人間の影響で実際に体験していく内にどんどんハマっていくというタイプ。素人の各種体験、初心者向けのHOW TO要素、熊本芦北(劇中名熊元芦方)の自然風景、その場での締めと調理と食事、業界のルールとマナーなどなど、これらが物語の中にきっちり組み込まれていて、主人公の体験と感情を丁寧に描かれているだけに読む側が初心者であるほど面白い。実際読んでいる間は画像検索を開きっぱなしになるくらい。魚や仕掛けを画像検索で、土地をGoogle Mapで合わせて見るという楽しみ方もいいのではないかと。要素は別とはいえ「ゆるキャン」のノリと空気に近いものがあるので、そちらが好きな人にはおすすめ。

 それにしても先行して原作を読んでしまうと余計にアニメの早い再開に期待してしまう。アニメだと4巻のキス釣りあたりまでやる感じかな。夏にやってくれれば劇中の季節と合ってくるけどさてどうなる。